船越雅代さん インタビュー: 何を作るかは考えてない、食材を見て何を作ろうか思いつくんです。
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船越雅代さん インタビュー: 何を作るかは考えてない、食材を見て何を作ろうか思いつくんです。

Text: Minori Mukaida
Photo: Ariko Inaoka

初回のまかないレシピは、京都にスタジオ兼茶楼Farmoonを構えて3年になる、世界的料理人の船越雅代さん。16代目の親友でありいつもインスピレーションを与えてくれる唯一無二のアーティストです。
今回Farmoonチームの買い出しに、京都の北、大原野へ同行させてもらいました。
ずらりと並ぶ新鮮な地の食材を、山菜、ハーブ、地卵と、迷うことなくどんどん選んでカゴに入れていく船越さん。
「何を作るかは考えてない。食材を見て何を作ろうか思いつくんです。」
今日のまかないレシピも野菜次第ということ。
その発想力と表現者としてのルーツ、お蕎麦についてもお話を伺いました。

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ご自身のお店を持つ場所として京都を選んだ理由は何ですか?

ご縁のある場所にご縁のまま漂って、気がついたら京都にきました。
私の料理は、時空間が交わってるその自分のいる場所いる時間を、自分を媒体として、
その時の食材だったり季節や空気を取り入れて吐き出したものがその時の料理なんです。
京都はそれが自然にできる場所ですね。東京には世界中の物が何でもあるけど情報が多過ぎて。
京都はそれを意識的にシャットダウンして集中できる場所だなって。

料理で表現するんじゃないんですね。

どこへ行っても、料理を作る場所のことをフィールドワークだったり文献からも調べて、食文化だけじゃなく歴史や民族、天候、地質学、文化人類学的にどういう土地だったんだろうと、なるべく一度掘り下げて学びます。それで、料理する時は意識的に全部忘れて、空っぽにします。空っぽにして、真空にして、ブラックホールみたいに周りを全部吸い込むイメージをするようにしてる。それが出るとき、学んだことを意識しないでいるけれど、きっと一緒になって出てきていると思う。

シャーマンのようですね。

究極の受け身なんです。常に受け身。これを作りたいからこれを手に入れてこうして…というプロセスとなるべく逆のことをしようとしていて。食材も、何を作りたいというのを考えずに、この野菜いいね、これなんか美味しそう、きれいだね、というので選んで、あとはパズルに近い。

どんどん料理が仕上がるのですが、とても自然体で、料理をしている感じがしないのが不思議です。

自分のエゴや狙いを唯一考えずにできるのが”料理”なんだと思う。アートをやっていた頃は、こう見せたいとか、こうしたらかっこいいんじゃないかというのを、どう削ぎ落とすかに相当苦労した。料理にスイッチした時に素直に出来たので、いろんな意味で合ってたんだなと思った。彫刻は作業的に時間がかかるから、仕上がる2、3ヶ月の間に自分の中で変わることもあったけれど、料理は早いからリズム的にも合ってたんだと思う。飽き性っていうかね、”今”を出すのが合ってる。

お蕎麦はどんな存在ですか?

神田の生まれなので、江戸前蕎麦と縁があって育ちました。おじいちゃんやお父さんと行くと、むこうは海苔とわさびで日本酒をキュッとやって。最後にせいろをもう1枚食べて帰るんです。お店でおかみさんが厨房向かって「せいろ〜二まい〜」「天せいろ〜」って注文を通すんですが、お蕎麦といえばあのおかみさんの声ですね。
関東はかえしに負けない風味の強い蕎麦でざるが主流だけど、関西では出汁が美味しいから柔らかめの蕎麦に出汁を含ませて出汁ごといただくスタイル。それぞれ違うアプローチで、今はどちらも好きです。

インスピレーションや、ワクワクすることはありますか?

どこへ行っても、料理を作る場所のことをフィールドワークだったり文献からも調べて、食文化だけじゃなく歴史や民族、天候、地質学、文化人類学的にどういう土地だったんだろうと、なるべく一度掘り下げて学びます。それで、料理する時は意識的に全部忘れて、空っぽにします。空っぽにして、真空にして、ブラックホールみたいに周りを全部吸い込むイメージをするようにしてる。それが出るとき、学んだことを意識しないでいるけれど、きっと一緒になって出てきていると思う。

船越さん=好奇心そのものですね。

好奇心だけで生きてますね。料理への好奇心は小さい時からで、英語と初めて触れ合ったのもレシピ本から。このレシピを知りたいから英語がわかるようになりたいっていう好奇心です。人との出会いも好奇心からですし、人と人とのケミストリーが生まれるのもまた面白いんです。

お話を伺って、Farmoonに決まったメニューが無いのも紹介制でお客様を迎えるのもとても自然なことと実感しました。
そこに座る人をイメージして産み出された一期一会を体験する時空間。
雅代さんの料理と人と万物への愛に包まれた、いつまでも終わって欲しくない居心地の良い時間がそこにあります。
Farmoonで開催のイベントに参加して、ぜひ体験していただきたいです。