福島鰹さんと、昆布の産地へ vol.2
繋がり

福島鰹さんと、昆布の産地へ vol.2

Text: Eri Ishida
Photo: Ariko Inaoka

尾張屋自慢の蕎麦つゆに欠かせない利尻昆布。日本最北端の豊かな環境のもと、手間暇かけて昆布づくりを行う生産者を訪ねる旅の後編です。

関連記事福島鰹さんと、昆布の産地へ vol.1

うま味たっぷりの出汁昆布をつくるには

今回訪れたのは利尻島と礼文島ですが、利尻昆布の生産エリアは稚内からオホーツク沿岸までが含まれます。同じ「利尻昆布」の中でも違いはあるのでしょうか?

利尻昆布の括りの中での違いはそう大きくはないのですが、ワインのテロワールのように島の中でも地形や潮の流れによって各エリアで少しずつ味わいが異なります。どのエリアを選ぶかも、ワインのように料理人の好みによるのですが、京都には礼文島の香深というエリアのファンが多く、尾張屋さんも香深の昆布を使っています。

利尻島の北西に位置する礼文島も利尻昆布の産地。南東の「香深」は利尻昆布の中でも特に香高い昆布の産地として知られている。夏の昆布収穫シーズンになると、こうした昆布干しの光景が島のあちこちで見られる。
利尻島の生産者、新浜秀一さんの作業小屋。

福島鰹さんは、従業員の方たちが定期的に産地の生産者のもとで、実際に働きながら生産現場を学ぶという研修をされているそうですね。利尻島・礼文島にも通われているとか。

生産背景をただ見学するよりも、たった一日でも実際に従事させてもらうことで、その苦労や味わいをより理解できると思っているんです。今回訪ねた利尻島の生産者、新浜秀一親方のところも研修先のひとつ。家族経営で50年以上昆布づくりをされていて、昆布の収穫シーズン(7〜9月前半)は、季節アルバイトの人たちも加わってすごく賑やかになります。この時季になると親方は夜中の2時ごろ船を出すんですが、それに合わせて親方の娘さんが毎日夜中の1時に起きて全員分のお弁当を手づくりされるんです。そうした人柄に触れると、より大事に届けたいという思いが強くなります。

乾燥する過程で昆布が砂利を巻き込まないように、干場には購入した粒の大きな砂利を敷き詰める。

夜中2時というと、真っ暗の中で漁をされるんですね。

深夜に漁をする理由は、昆布づくりの一番重要なプロセスである“乾燥”に、できるだけたくさんの時間を割くためなんです。今では人工的に温風を当てて乾燥させるところも増えてきていますけど、私たちがやりとりさせてもらっているのは、天日干しにこだわる生産者が多いため、いかに日照時間を確保するかというのが一番重要になってくる。天気がよければ5〜6時間で乾きますが、途中で雨が降ったりすると出し入れしないといけないので大変です。それでも天日干しにこだわるのは、やっぱり太陽に当てると肌艶も違うし、出汁の出方も違うんですよね。
それに、乾いたら今度は熱を加えてのし状に伸ばして形を揃えて、等級に分けて結束して……という作業がまだまだあります。

両端をハサミで切り落として整形し、長さ、重さ、色合い、キズの有無などによって等級に分けていく。切り落とした端は「耳昆布」といい、安い価格で販売される。
礼文島の香深で天然と養殖を手掛ける昆布生産者の大倉浩平さん。出身は大阪で、昆布シーズンにアルバイトで来ていた生産者の後を継ぐことになり、礼文島に移住した。

“寝かせる”ことに、どんな効果があるのでしょうか?

寝かせるとなぜいいのかというと、昆布が本来持っているアミノ酸と糖分が時間を追うごとに反応して、上品な甘い香りが増していくのと同時に、海藻の臭みが抜けていくからなんです。寝かせる期間としては、大体2〜3年。福島鰹では、成形されたものを買いつけて自社の蔵で寝かせてお出ししています。

切り分けて結束した昆布は、湿度管理をしながら保管する。

「ハレとケ」(非日常と日常)で言えば、尾張屋は京料理の中でも庶民の日常食としての蕎麦をつくり続けてきた。昔の京都では一般家庭でも井戸水で毎日出汁が取られていたことを思うと、今となっては尾張屋のおつゆは京都の人にとっても特別な味わいになってきているのかもしれません。

そうですね。京都といえども、今では料亭以外でここまで本格的に出汁を取られているお店はずいぶん少なくなってきたと感じますし、生産者にも同じことが言えると思います。昆布はもちろん、削節も、働き手の高齢化や環境の変化から、昔ながらの手間暇かかる製法で本来の味を守り続けるということが難しい時代になってきました。だからこそ、私たち問屋の立場からもその背景を伝えていけたらと思っています。