福島鰹さんと、雑節の産地へ Vol.2
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福島鰹さんと、雑節の産地へ Vol.2

Text: Eri Ishida
Photo: Ariko Inaoka

尾張屋の香り高いおつゆを支える、メジカやサバなどの雑節。今も伝統製法を守り続ける熊本県・牛深の生産者、小川清彦さんの加工場を訪ねる旅の後編です。

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雑節の伝統的な製法について、具体的に教えていただけますか?

まず水揚げされた魚の頭や内臓の処理をして煮かごに載せ、海水で煮て乾燥室に入れます。数日で乾燥したら二階建ての燻製室に入れ、多方向からナラやクヌギなどの堅木を燃やした薪火の熱と風で燻して香りをつけていく。そのあと、せいろを外に出して積み上げ数日かけて海風に晒し、さらにせいろを床一面に広げて天日に当て、じっくりと乾燥させます。こうしてほとんどの工程を手作業と長年の感覚を頼りに、何日もかけて仕上げていくんです。

牛深の雑節は、海水で煮熱する。節づくりの中でも、鰹の枯節はカビをつけて発酵させるため真水で煮熱するが、カビつけをしない節づくりでは、保存性を高める意味で海水を使う。
燻製の工程で肝心なのは火加減。火が弱すぎると香りがつかず、逆に強すぎると身が破裂してしまう。
せいろを入れ替えながら焙乾(燻製させながら乾燥させる工程)を2回以上繰り返す。

実際に拝見して、どの工程も熟練のカンと労力のかかる作業でしたが、みなさんとても手際がよく素晴らしい手仕事だと感じました。

とても骨の折れる作業をみなさん習熟されていて本当に素晴らしいのですが、やはり若い担い手が少ないため、いつまで守り続けられるのかが憂慮するところです。特に屋外での作業は天候や風向きにも大きく左右されるため、機械のほうが効率よく生産できるのですが、小川さんが数をこなすことよりも伝統製法にこだわるのは、何より風味を優先しているからです。小川さんの加工場は久玉湾に突き出た岬にあって三方から海風が通るという、立地的にも伝統製法で風味高い節がつくれるのもこだわるべき大きな理由だと思います。

燻製が終わると、せいろを外に積み上げ数日間、しっかりと海風にあてて乾燥させる。
牛深は天草諸島下島の南端にあり、海辺の地形はリアス式海岸。小川さんの加工場も南に突き出た岬にある。

こうして長い時間と熟練の手仕事から生まれた雑節を使った尾張屋のおつゆの味わいを、お出汁の目利きとして福島鰹さんはどう感じられていますか?

仕事柄、日本各地でさまざまなお出汁をいただいてきましたが、尾張屋さんのお出汁は“濃い”んです。濃いというのは味付けではなく、出汁が濃いという意味で、贅沢に素材を使い、昆布と削節を絶妙に配合されていると感じます。サバやウルメを主体にしていますが、青魚の臭みを抑えるように目近で香りをつけているので、温かいおつゆを飲むと鼻から香りがあがり、ざるつゆにすると冷めた状態のほうが舌で香りを感じやすく、鼻に抜ける香りも非常に高い。かといって、蕎麦の風味を邪魔することはありません。全国的に見ても、レベルの高い本物のおつゆを毎日つくり続けられていると思います。

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