一保堂茶舗さん インタビュー:心や体が豊かになるような時間を、お茶で
繋がり

一保堂茶舗さん インタビュー:心や体が豊かになるような時間を、お茶で

Text: Minori Mukaida
Photo: Ariko Inaoka

本家尾張屋の店舗では、一保堂茶舗の緑茶をお出ししています。お席に座ってまずはほっとひと息、緑茶でさっぱりしたのちに、お蕎⻨のやさしいお出汁を味わっていただく、これは⻑年変わっておりません。代々ご縁を繋いでいただいている一保堂さんに、老舗の繋がりのこと、海外へ活躍の場を広げるようになったきっかけなどを伺いました。

本店の暖簾をくぐると、従業員の皆さんがテキパキ作業をしながら気持ちの良い笑顔で迎えてくれる。歴史ある建物に古い茶壺と味のある毛筆のお品書き - 不思議とモダンな空間は、どこを切り取ってもフォトジェニックで、国内外の旅行者が立ち寄りたくなるのも頷ける。お品書きは全て会⻑夫人渡辺都さんによるものだそう。

海外へ行くと、『IPPODO=Japanese Tea』というのが浸透しているように思います。海外に対してお茶を伝えることを意識されたのはいつ頃ですか?

(代表取締役社⻑ 渡辺正一さん)「2005年くらいです。従業員の方が熱心に英語を勉強して、海外からの要望があれば行って淹れ方の教室をする、いわゆる種蒔きを始めたんです。その積み重ねですね。会⻑夫妻が出向いたこともありました。」

(渡辺孝史会⻑)「社員2人と私たちの4人でキャラバンみたいなのをやりましたよ。急須を割れないように手荷物で持って入ってね、パリ・コルマール・ケルン・ローマ、4カ所を2、3泊しながら、講演して、お茶を淹れて、飲んでいただいて。200人相手にどうやって美味しくお茶を飲ませるかっていうことも、あの時に考えましたね。今日うまくできなかったところを、次の場所でどう解消するか、毎日試行錯誤して。」

(会⻑夫人 渡辺都さん)「どうやってわかりやすく興味を持ってもらえるようにするか、日本のことだけを説明してもしょうがないので、世界でお茶はどう呼ばれてるかとかを入れて。あの時にいろいろと考えて組み立てたのが、今になって良かったなと思います。」

(正一さん)「2013年から、ご縁をいただいてNYにお店を構えさせていただいています。アンテナ的存在のお店ができて、ずいぶん伝わりやすくなりました。」

コロナ禍、私たちも『IPPODO=Japanese Tea』みたいに『SOBA=尾張屋』になれればと暗中模索の日々です。老舗の方々もこの期間にいろいろなことを諦め、逆にいろいろなことに気づいたと話されているのですが、一保堂さんはいかがですか?

(正一さん)「コロナで状況が変わった中で、それでもうちのお茶をお求めいただくお客様の話を伺うと、お茶って無くても生きていけるものなのに『お茶にまつわる時間』を喜びとして感じていただいているんだなぁと、改めて感じました。毎年社内でこの一年の方針を伝える機会があるんですが、今年は『お客様の心身ともに豊かな暮らしに貢献する』としたんですけども。きっとお客様は心や体が豊かになるような時間を過ごしたいと望んでらっしゃる、うちの会社はお茶を活用しながらそれに貢献していきましょうと。もちろん、全ての人がそれを望んではるとは思えません。戦争や厳しい環境の中、明日生活できるかわからない方にうちのお茶をおすすめしても、きっとお役立てできることはない。日々の生活の中で彩りを持たせたいと思ってはるような方に、うちがお手伝いできることはないかっていうことを取り組んでいきましょうと。」

お客様の望むひとときのお手伝いをする̶̶控えめながらも芯のある、一保堂の皆さんから受ける印象そのものですね、学びになります。

(当主稲岡亜里子)「京都って、自分のことだけじゃなく、先祖や周りの人たちの繋がりを意識して生きてる街だなって、そこが魅力だなと思うんですが、皆さんはどうですか?」

(正一さん)「多分短い時間なら過ごせるでしょうけど、⻑い時間過ごそう思ったら自分たちのことだけしか考えてたらダメやろうっていう価値観はあります。お客様はもちろん、仕入れ業者さんや生産家さんのことにも及んで考えないと⻑くお商売はできてこないでしょうし。」

(会⻑)「私が毎朝毎夕お仏壇で手を合わせる役なんですけれども、お仏壇のそばに私どもの親族の命日を日毎に、親戚の人たちのもの、もう一つはお世話になった方々のご命日も表にしておりまして、多くの皆様方に支えられて今がある、今私たちが存在していることのありがたみの感謝を伝えて、手を合わせています。」

大切な味、屋号、お客様からの信頼、老舗として紡いでいかなければいけないことはたくさんありますが、お世話になった方への感謝の気持ちも紡いでいらっしゃる一保堂さん。何気なく飲む一服のお茶に歴史と想いが詰まっていると知ると、いつもより増して沁みるように美味しく感じるのは単純過ぎるでしょうか。お話を伺う間に淹れていただいた3種類のお茶はどれも最適なタイミングで注がれたプロの味。まずは一種類、美味しく淹れられるようになったら、幸せを感じる時間が増えそうです。

<お話を伺った皆様>
取締役会⻑ 渡辺孝史様
代表取締役社⻑ 渡辺正一様
常務取締役 渡辺都様
取締役 渡辺佳子様

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